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武闘派ペテン師

タバコ吸わせろよーーーー オラーーーー
酒持ってこいオラーーー
酒がないなら お茶でももってこいよーーーー
クソ看護師め! はやくしろ!
タバコもってこいって!  
おぼえてろよーー


保護室の音声モニターからは
ドアをガンガン殴りつける音と 大きな叫び声が
ずっと聞こえていた







・・・ 看護師は みんな うんざりしていた
(あいつの対応には もう行きたくない) と 
どの看護師の顔にも 描いてあった

声の主は 若い女性だ

もともと統合失調症ということで あちこちの病院を受診していたらしい
しかし アナムネを見ると あちこちたらいまわし

なんで? と思ってよくみると
病気は病気なんだけど 家族もめちゃくちゃで
こどものころから ちゃんとしたしつけをされてたのかどうか?
要求ごとが通らないと 家族や周囲に 暴言暴力 社会的逸脱行為(窃盗 援交)
果ては 首吊り未遂 リストカット 
異食(いしょく・食べ物以外を食べること。紙とかゴムとかひどい人は排泄物などなんでも)

で もともと管理能力のない家族は 彼女をもてあまし
精神病院へ

しかし 病院でも状態は変わらず 欲求を通すために やりたい放題
どこの病院も 対応困難 看護師はみなボロボロ
あちこちの病院をたらいまわされたあげく
最後の砦の うちの病院にきた

アナムネ見ただけで ハラいっぱいだな こりゃ(--;


入院3日目で 今日は 私が担当か・・・・ ハァ


オラ 看護師ーーーー
電話かけさせろーーーーー 電話!!



私は ため息をついて カルテをめくった

「電話:1日2回まで。10:00~17:00まで。相手先は家族のみ。」

主治医からの指示を確認してから
ナースコールを通じて 彼女に話しかけた

オガワさん さっき1回 電話かけましたね
あと1回なのは ご承知ですね

・・・わかってるよーー

では あと今日最後の1回ですね
今 テレホンカードを持って うかがいます

オガワさんの電話対応行ってくる!と同僚に声をかけ
彼女のテレカを持って 保護室まで行く

・・・オガワさん お電話 どうぞ


ハーイ


病院の オレンジ色のスウェット上下の彼女は
だるそうにベッドから起き 立ち上がった

・・・実際に対応するときは あんまり ぎゃーぎゃー騒がないんだよなこの子
まぁ いつ豹変するか わからんが。。。
初日は 男性看護師につかみかかったっていうし、、、
昨日も 若い女性看護師に ツバ吐きかけたらしいし、、、



・・・電話終わったー
ねぇ もうちょっと こっちにいてもいいでしょーー
ご飯 こっちで食べたい~~



主治医との約束はどうなってたっけ?
この週末 落ち着いて部屋で過ごせなければ
週明けの処遇については 検討できないって言われてるのでは?


そうだけどぉー
いいじゃん 5分くらいー



5分が10分 10分が20分になるからね
約束は守ろう
何度もいうけど あなたが約束守れなければ 私たちも守れないよ


・・・ハーイ もどりまーす
ちぇ



案外あっさり引き下がった彼女は
おとなしく 自室に戻った
咽喉が渇いたという彼女に 冷たいお茶を一杯 紙コップに入れて渡す

ありがと~


私が退室して5分後
またドア叩きと コール


もう1回電話する~~~
かけさせてーーーーーー



さっき今日最後の1回って確認してかけたのに。。。
思わずため息

ナースコールごしに

今日はもう2回かけたよね
主治医との約束でしょ?

と 声をかける


っせーなーーー
用事あんだからしょーがねーだろーーーー


約束は約束だからね
明日の10時以降にお願いします


じゃあ タバコ吸わせろーーーーー
電話がダメなんだから タバコくらい吸わせろよーーー 



電話がダメならタバコって 
やっぱ 用事なんかねーんじゃん(--;

再び ナースコールごしに

タバコは隔離中はダメって 主治医から言われてるでしょ
病院のルール 主治医との約束は 守ってください


あっ そうーーーー
じゃあ いいいいいいよおおおおおおおーーーーーーー
覚えてろよーーーーーーー



モニターで見ていると 
立ち上がった彼女は 枕を手に取り 室内のトイレにズボッとつっこんだ

汚水まみれの枕をつかむと
思いっきり力をこめて 窓ガラスを殴りつけはじめた

大きな音と振動が Ns Stationにまで 伝わってきた

「・・・らん どうする あれ。。。薬か注射 いっとく?」

同僚が声をかけてきたが
部屋割り表をちらりと見て 彼女の部屋の隣室は 現在空室になっているのを確認

うーん
隣 空室だよね
彼女は角部屋だし
しばらくは ほかの患者さんからの苦情はこないと思うんだ
ああいうことすれば すぐにかまってもらえると思われるのも困るし
しばらく様子みようか
あれ以上エスカレートするなら そのとき考える

同僚にそう返事をすると 私はモニター画面を見つつ
カルテの整理を始めた

枕で窓を殴りつける音は それから10分以上 ずっと続いていたが
突然途絶え 静かになった

?と思い モニター画面を見る

カメラに背を向けている彼女は
洗面台の前で なにやら動いている
画面を アップにすると
飲水用の紙コップを 水でぬらして ちぎり 口に押し込んでいる
そして ベッドから掛け布団をとりあげ びりっと破き 中から 綿を引っ張り出した

「らん! あれ!」 同僚が叫んだ

画面の中の彼女は 布団の綿を大きくちぎり さらに口に押し込んだ
そして カメラのほうを向いて ニヤリと笑った

タバコ吸わせなきゃ もっと食うぞ! オラー


やりやがった  異食

統合失調症の 幻聴などの症状で 幻聴に命令されて逆らえず
食べ物以外を口にしたり 
妄想に支配されて 排泄物を食べてしまったり

中には そういう人もいる
病気がそうさせているのだ

でも この彼女の場合は違う 明らかに違う

要求ごとを押し通すための 脅しの手段として 食っているのだ


画面の中の彼女は さらに 綿を布団から引っ張り出した



・・・だめだ やばいわ 私。



私は カルテを閉じ 両手をついて 立ち上がり
羽織っていたブルーのカーディガンを脱いで 椅子の背にかけた
使い捨てのプラ手袋を両手にはめ
両足首と手首と 首を グルグルと回した

コキコキッ と 音がした

彼女の部屋の音声モニターと 画面モニターのスイッチを OFF に切り替えた
叫び声は聞こえなくなり 画面は真っ暗になった


Ns Station内の スタッフたちに にっこりと微笑み

オガワさんの対応に行ってくるから
みんなは ここで待っててね♪ テヘ♪

と 声をかけ 保護室へ出る廊下のドアを開けた

通常 暴言暴力のある人や 危険行為のおそれのある患者に対応するときは
複数の看護師で対応するのが マニュアルになっている

「らん! ひとりじゃあぶないから 俺も」 と いう同僚に

大丈夫! ひとりで大丈夫! と 返事をし
そのまま 廊下に出て 足早に 保護室に向かう



彼女の部屋の前に立つと 大きくひとつ 息を吐き
ノックもせずに いきなり ドアを開け放った


無言で つかつかと彼女に歩み寄り
腕をつかんで 自分のほうに向かせる

バランスを崩した彼女は 床に へたりこんだ

そのまま 自分も横にしゃがみこみ 右手で 彼女の顎を ガシッッッとつかんだ


・・・この口には 今 何がはいってんだ? あぁ?

普段は アニメの声優の声だとかテレクラのバイトしてただろとか そんな声の私だが 
このときは 低い声で 彼女に言った

つかんだ顎をガタガタと揺さぶりながら さらに言った


・・・聞こえない? もっと大きい声で言ってやろうか

この口には なにが入ってんだって きいてんだよ!

つかまれた顎を必死にはずそうとして 彼女が私の腕をつかんだが
顎をつかんだ右手に さらに力を込め
言葉を発しようとして開けた彼女の口に 左手を突っ込んだ


こういうことすれば あたしら言うこときくとでも思ってんの??
っざけてんじゃねーーーぞ!
ここはね 今まであんたがたらいまわしにされてきたぬるい病院とはわけが違うよ!
世の中 優しい白衣の天使ばっかじゃねーーんだよ! 
あぁ?? わかってんのか??
世の中にも病院にもルールってもんがあんだよ!
ルールや約束が守れないやつはどうなるか 身を持って教えてやろうか!あぁん??

もう一度でも 脅しのためにこんなことしてみな
この口に突っ込んだ手 もっと奥までつっこんで 胃袋引きずり出して
紙コップや布団の綿どころか 飯も食えないようにするよ!

わかった??

わかったら 返事!!!!!!!!



・・・口の中に 自分で入れた布団の綿と紙コップが入っていて
さらに 私が左手を突っ込んで 顎をガタガタ揺さぶられている彼女が
返事なんてできるわけないのだ

いつもニコニコ 彼女が大声をあげても 淡々と接してきた私の
いつもと違う恐ろしい剣幕に
涙目の彼女は コクコクと うなずいた


私は無言で 彼女の口から 左手を抜き 
彼女の口の中に入っていた布団の綿と 紙コップを引っ張り出した


呆然とへたり込む彼女を尻目に
ベッドのストッパーをはずし 大きくドアを開け放ち ベッドを室外へ引っ張り出した


・・・ベッド なんで持ってっちゃうの

布団食ったり 枕投げたりする人の部屋に 危なくてベッドなんて置けない!

ベッドを引っ張り出したあと 室内に残っていた布団 枕
隔離のお知らせの書類 など 全てのものを室外へ出した

残ったのは トイレと 洗面台だけ



1時間後にもう一度来るから
それまで 自分のやったこと 考えなさい


ばたん!と 音をたててドアを閉めると
3秒後に 「うあぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~」と 長い長い 叫び声が聞こえた



息を整え Ns Station に戻ると
同僚が ぽつりと言った

「・・・ 今さ 助けに行こうと思ったんだよ」


え? なんで? 私 ひとりで大丈夫だって 言ったじゃない


「・・・いや 患者を。。。。。」

Ns Stationを出る前に 切っていったはずのモニターは
音声も 画面も ガッツリ ON になっていた


・・・ あれ? あれれ?
やっだぁ もう♪ 聞こえちゃったカナ★ テヘ♪



「・・・いや ボクは なにも聞こえませんでした・・・」
「わ わ 私も 今 ほかの患者さんの対応してたから・・・ なにも・・・」

後輩たちは 目をそらしながら 言った

同僚は ニヤニヤしていた




1時間後 冷たいお茶の紙コップを2つ持って 彼女の部屋へ


ひとつを彼女に渡し ひとつは 私

ベッドがないから 二人で 床に座る




・・・ あなたねぇ 何しに この病院きたの


・・・ 病気 治す、、、ため、、、かな

かな ってなによ! 
やる気ないんかい

・・・どーせ無理だし


せめてさ
約束守る姿勢くらい見せなよ
今すぐ完璧にやれとは 言ってないでしょーが
がんばる子は 私ら 見捨てないで応援するよ

・・・うん
・・・ 次 ウーロン茶がいいな



あいよ
次のお茶の時間は ウーロン茶持ってくるよ


翌日 出勤してくると
Ns Stationの私のロッカーに ステッカーが貼ってあった


赤字に白い字で 大きく  と書いてあるものと
(血液汚染や感染の恐れのあるものを入れたゴミ袋などに貼るステッカー)

武闘派らんてぃすと書かれたもの


・・・誰 貼ったの これ


「俺 俺! かっこよかろう! ゆうべPCで作った! お前にぴったり!」


武闘派 って アンタ・・・

(--;

by latenscurtis | 2009-01-29 21:24 | hospital